諸資料を精査

 作品の復元に当たっては、パート譜群や筆写総譜など、作品の残されている資料の全てを総合的に精査し、スコアの復元に当たっています。戦後に書かれた一部 の作品を除いて殆どの作品のスコアは戦災などで消失しており、第三者における筆写パート譜や、1960年代に第一法規出版から作品全集刊行が企画された折に作成された筆写総譜などが、資料として残されています。これらの資料のうちのパート譜は戦前、作曲者自身の指揮下で使用されたものが比較的多く残されており、これらの資料が復元に当たっての重要な決め手となります。

ダイナミクス、アーティキュレーションの統一

 これまでに見てきた資料ではクレッシェンドの範囲がパートによってまちまちであったり、同じ声部なのに1stはクレッシェンド、2ndはディミヌエンドということがしばしありました。よく精査してみると、パート譜作成時に近似の五線のアーティキュレーションを誤って書き込んでしまったりということがありました。これらは作曲者指揮下で使用されていたパート譜ですら散見しているのです。当時のオーケストラのレヴェルを省みると、あまり高度な要求はもちろん、どうにかそれっぽくまとめることが精一杯で、細かいアーティキュレーションにまで気が回らなかったということもあり得ます。また、パート譜の元になった自筆スコアに誤りがあったとしても、作品に先入観のない第三者の指揮者がスコアを精査し、演奏、指揮する機会があまりなかったために少々の誤りが見過ごされてしまったままになっていた可能性があります。

 原資料を基にスコアを復元していく過程でこれらのアーティキュレーションも厳重にチェックし、全体を見通したところで、明らかに合理的でない指示に関しては修正します。クレッシェンドの範囲などは出来る限り原資料に基づいて設定するのはもちろんですが、作品のニュアンスを精査した上で校訂者が範囲を決定している場合もあります。

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